次の日は筋肉痛になるほど力のいる大変な作業だった

--まず、鹿皮なめし部の活動に参加しようと思った理由やきっかけは何ですか?
ごう:大学の講義で木への獣害が深刻なことを知って興味を持ちました。
ゆうな:私は、野生動物に関わることがしたいと思っていた時に大学のキャリアセンターからこの活動を紹介してもらいました。
たに:私の場合は、まず大滝の天野さんと活動をしたいという思いと、狩猟免許を持っているのでそれを活かしたいという思いから一緒にやってくれるメンバーを募りました。
しん:元々レザークラフトに興味があって、なめす経験はなかなかできないので楽しそうだなと。
アキ:大学で牛や羊をなめす実習をしたことがあるのですが、もっと間近で授業でもやらなかったこともしてみたいと思って。

--大学でなめす実習ってすごいですね!
アキ:授業では数十人でやっていたし、機械も使っていたので、自分の手でなめしてみたいと思っていました。

--なめし部は、共通点として野生動物や皮なめしに興味がある人たちが集まっているんですね。では、実際にどんな活動をしたのか教えてください。
ゆうな:まずは、大滝にあるシカトモの天野さんのところへ鹿皮を貰いに行きました。シカトモには鹿の皮を剥いだり捌いだりする場所があり、そこで皮についている肉や脂肪をナイフで削ぎ落とす「裏すき」という作業をしました。脂でナイフが滑ってしまい、なかなか大変で力がいる作業でした。私たちは4人がかりで1枚の皮を処理していましたが、天野さんは職人技で1人ですぐに終わらせていて驚きました。


(写真1:皮の肉や脂肪を削ぎ落とす作業)

-シカトモでは鹿料理を食べることもできると聞きました。
ゆうな:はい。鹿だけでなく、猪や熊のお肉を使った料理を頂きました。お肉はあっさりしていて美味しかったです。その後、処理した皮は、メンバーが家に持ち帰って作業する分と事務所の分に分けて、なめす用の液体に漬けて大滝から持ち帰りました。

--なめし液に漬けていないと皮はどうなるんですか?
ゆうな:傷みやすくなって処理できなくなってしまいますね。
アキ:生肉の扱いと同じです。なめし液に漬けることで、皮が腐るのを防いだり、コラーゲンを安定させたりする効果があります。皮を綺麗な状態でスキンやファーへと加工することができます。
たに:ここまでが前処理の工程で、この先が大変でした…。
ごう:今回は「ミョウバンなめし」という方法で、ミョウバンと水と塩でなめし液を作って皮を1週間ほど漬けました。家でもできたらという思いもあり、分けた皮は4人のメンバーがそれぞれの家に持ち帰って漬けました。漬けた後は、厚紙のように硬い状態の皮を柔らかくするために、濡れたタオルで揉んで引っ張るのを繰り返しました。今は大滝で裏すきした面をやすりで削って滑らかにする作業をしています。


(写真2:なめし液に漬けた皮)

チーム発足から3ヶ月間、何回も勉強会を重ねた

--アキ以外のメンバーは初めてなめす作業を経験したと思うのですが、実際に皮をなめしてみて率直な感想はどうでしたか?
ゆうな:最初の皮にダニがついている状態から、ここまでできるとは思っていませんでした。

--鹿皮に対しての抵抗感はなかったんですか?
ゆうな:途中まではありました。死んだダニがいっぱいいたり、汁が垂れたり。
たに:皮の中でもダニが少ないものを選別してはいたのですが、断念した方の皮には生きてるダニがたくさん付いていました。
ゆうな:気持ち悪かった…。
アキ:あと、家でやすりで削る作業をしている時は、削りかすが身体中に付いたりもしました。でも、大学の講義では機械で自動的になめして加工していたので、自分たちで本当にできるんだなと思いました。
ごう:なめす作業の大変さがわかりました。なめし液に漬けている時も1日1回はかき混ぜなければいけないし、時間と手間がかかるなと。準備段階でも事件があったり…。

--作業にあたって、緊張したりしませんでしたか?
たに:失敗したら腐ってしまうのでドキドキしました。でも意外と上手くいって、これからの可能性を感じました。
しん:僕は肉を削いだり、ミョウバンにつけるという作業ができていなくて、作業できたのも削りの作業からなので、緊張はあんまり…。


(写真3:やすりで削る作業)

--なめすための方法や工程は、どうやって勉強したのですか?
アキ:何回も勉強会をしました。宿題で個人で調べて、発表して…
たに:この活動が始まったのは5月で、そこから3ヶ月間ひたすら調べました。
ごう:ゆっくりだったけれど、全員が素人の状態から始まったので、まずは皆で色々調べてみて、皮が手に入ったら一回やってみようという感じでした。

--家でなめすことはなかなかない体験だと思いますが、どうでしたか?
ごう:最初は生臭さが気になりました。汚れたりもするので、抵抗ある人もいるかも。
アキ:洗濯物干しに鹿の皮がかかっている光景はシュールでした。あと、液をかき混ぜたり、柔らかくしたりと、毎日コツコツやる作業があって忘れがちで大変でした。

誰でもできる方法で活動を広げていきたい

--今回の活動を通して、心境の変化や気付きはありましたか?
ごう:今回の活動は、現状として鹿が増えている問題や、道内でなめしをしている人が少ないことが背景にありました。なので、なめす時は皮を本州に送って、なめされたものを北海道で加工して製品にしているのですが、それを北海道内でなめして加工する流れを完結させられたらと思っていました。実際にやってみて、なめす工程は単純作業で誰でも関われるので、色々な人を巻き込んでいって、鹿皮のなめしを通じて鹿の獣害など自然の実態を感じられるような活動にしていけたらいいなと思いました。

--なめし液に漬けたり揉んだりする作業は、確かに特別な技術なく誰にでもできそうですね。逆に最も大変だった作業は?
ゆうな:やっぱり裏すきが一番難しかったです。次の日は筋肉痛になったくらい。
アキ:あとは、やすりがけの作業も大変でした。機械なら一往復で済むのを手作業で何時間も…。でも、専用の道具でなくても身の回りにある物でなめしができることがわかりました。作業は大変だけれど、どんな人にでもできると感じました。あと、今までよりも鹿を身近に感じられるようになったし、ミョウバンなめし以外の方法も試してみたいと思いました。
ゆうな:私は、大学ではアーバンディア(※)のように鹿が大量にいる問題に対してどう対処するかを学んでいますが、それに対しての解決の選択肢が増えました。また、やったことのない作業だらけで楽しかったし、ためになりました。
たに:野生動物の勉強をしているわけではない人や皮の加工に興味がある人など、関わりの幅が広い活動を作れるのは今後の可能性を感じました。家でもできることがわかり、なめしだけを生業にするのが難しく捨てられている皮を何か価値あるものにできることが楽しみです。
しん:遠方に住んでいても家でこうした活動に関われるロールモデルになれたと思うし、家で試してみようと思う人がどんどん増えていったら面白いと思いました。

※アーバンディア:市街地に出没するシカ

--最後に、今後のなめし部の活動について教えてください。
ゆうな:今はなめした毛皮を加工して、キーホルダーや三脚椅子、尻当てを作ろうとしています。次はレザーの状態にしてみたいです。
アキ:今回は簡単なミョウバンなめしで毛皮を作りましたが、次回はより時間や手間のかかるタンニンなめしをやってみたいです。
ごう:タンニンなめしだと皮をレザーの状態にできます。調べてみるとタンニンなめしを個人でやっている人は少ないのですが、次に皮が手に入ったら一度やってみたいと思っています。
たに:特別な機械を使わずに誰でもできる方法でやっていきたいです。

おまけ

ごう:大滝に行く当日の朝、事件がありました。僕が備品の準備を担当していたのですが、なめし液を作るために市販の焼きミョウバンを水に溶けやすくするために生ミョウバンにする必要がありました。そのミョウバンを大滝に持って行って、現地で水に溶かして塩と混ぜて液を作る想定でした。なので、前日の夜に焼きミョウバンをお湯に溶かして一晩置いて生ミョウバンを作ろうとしたのですが…翌朝見てみるとガチガチに固まってしまっていました笑。


ごう:なのでミョウバンを大滝に持って行けず、仕方なく現地では洗剤に漬けて持って帰って来ました。その後で、生ミョウバンを新たに作ってなめし液に漬ける…というちょっとしたトラブルがありました。なめし液を作る準備も大変でした。

これまでの経緯などはこちらから

インタビュアーの感想

私は北海道の生まれ育ちですが、現状では鹿の皮が捨てられてしまっていることや、なめすためにわざわざ本州まで送っていることを初めて知って驚きました。このなめし部の活動は、そうした自然や野生動物の課題に対しての一つのアクションになると思いました。インタビューを通じて、なめし部のメンバーは身近な物で誰でもできる方法を大事にしていることを感じ、今後この活動の輪が広がって欲しいと思いました。

(記事を書いた人:わっか)

 

※本記事は、休眠預金を活用した『北海道未来社会システム創造事業』を活用し作成しています。
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