インタビュアー
インタビュアーは厚真長期滞在プログラムに参加した「みゆき」「みさき」です。
インタビューはZOOMを用いて行いました。
厚真長期滞在プログラムの経緯
2018年9月6日に北海道胆振東部地震が発生しました。厚真町では震度7を記録し、土砂崩れなど甚大な被害を経験しました。NPO法人ezorockは、発災2日後から現地入りし、地域住民や他の団体と連携しながら被災地支援活動を行いました。発災直後から「子どもの居場所づくり」を中心に活動してきました。被災地において、学校や幼稚園は休校になってしまい、大人たちは仕事や家の片付け等があるため、避難所にいる子どもたちは居場所がなくなってしまいます。その問題を解決するために、厚真町教育委員会の斎藤烈さんとezorockを含む多数の団体が協力し、避難所横の広場に「ハッピースターランド」という子どもたちとボランティアが過ごす「居場所」を設置しました。この活動が原点となり、大学生の夏休み期間を利用して、北海道内の若者に厚真のことをもっと知ってもらいたい、厚真町に長く関わる人たちを増やしたいという想いのもと、この2019年夏より長期滞在プログラムが始まりました。毎年、北海道教育大学函館校、釧路校の学生を中心とした大学生が参加し、厚真町で1~2週間、共同生活を行います。その中で、農作業を体験したり、放課後児童クラブの子どもたちを遊んだり、厚真町の様々なところを訪れながら、町の方々を関わり、災害やまちづくり、教育について考えます。
写真:ハッピースターランドで遊ぶ子どもたちの様子
どうしたら町外の人と交流できるだろうか?と考えていました
みゆき:まず、大学生の長期滞在を受け入れるきっかけについて教えてください。
堀田さん:きっかけは2018年の胆振東部地震の時に、学生ボランティアの方々がいろいろなつてを使って来てくださったんです。その時、農作業の手伝いをしてもらって助かったんですけど、それ以上にみんなでワイワイ作業して雰囲気が明るくなったり、子どもたちの笑顔が増えたり、そういう心が明るくなるようなことが私にとってはとても助けになりました。そういうつながりをもっと広げていきたくて、これからも大学生を受け入れていきたいよねって夫婦で話しました。そんな時に頭に浮かんだのがezorock代表の草野さんで、大学生のインターンを受け入れたいと相談しました。ちょうどその頃、草野さんも大学生の長期滞在の受け入れ先を探していて。お互いにタイミングも場所もとても良かったし幸せな出会いだなって思いました。
みゆき:みんなで何かひとつのことを一緒に作業をすると、心が明るくなりますよね。大学生の長期滞在を受け入れたことで、ゆみこさんご自身に何か変化はありましたか?
堀田さん:普段あまりは敷地内から出ないんです。朝にシイタケを収穫して、選別して農協に出荷しに行くという繰り返しの毎日を過ごしているんです。そんな中で大学生が来てくれるというのは、私にとってはとっても嬉しいことです。一緒に作業してご飯を食べるというのがとてもいい刺激になっていて。学生さんが新しい考えとかも教えてくれるので勉強になっています。普段の作業の合間をぬって新しい人間関係を築くことは容易ではないけれど、ならば呼んじゃえばいいんだ!と。そしたら私にとっても相手にとってもプラスだし、これはとてもいいことだなと気づけたきっかけでもあります。
みゆき:「外から人を呼べばいいんだ!」という発想を持たれたことが、大きなポイントですね。ご家族の皆さんにも何か変化はありましたか?
堀田さん:うちの子どもたち、ちょっと引っ込み思案で人見知りなんですよ。1日とかの短いボランティアだと仲良くなる前に帰ってしまうんですが、長期滞在なので滞在期間が長いじゃないですか。より親しくなれる、より話せるようになってきて、3年目の今年は自分から心を開くようになってきて。特に田舎にいると同級生以外と接する機会がないと思うんです。なのでいい機会を与えてもらってるなと思っています。
農作業を手伝ってもらうよりは、その農作業を通してコミュニケーションをとってもらいたい。例えば、原木シイタケの栽培方法って今まで思ってたイメージと違うって思いませんか。こんなに大変だと思わないじゃないですか。私も思ったのでそういうのを体験することによって知ってほしいという思いがありました。
私の趣味は料理を作ってみんなで食べることなんです。長期滞在中はそれもかなえられるので一石二鳥三鳥四鳥って感じ。なので、できれば長く私のライフワークとして続けていきたいなって思ってます。
写真:堀田農園での農作業の様子
大学生の長期滞在を受け入れる厚真町としてのメリットは何か
みさき:それでは次に斉藤さんにお話伺います。長期滞在を受け入れた時はどんな事を思いましたか?
斉藤さん:1年目の活動が始まる前までは厚真町にとっても、来てくれる大学生にとっても、どう影響があるかということまで考えきれてなかったっていうのが正直なところです。1年目のプログラムは放課後児童クラブの支援員のお手伝いだったんですよね。そこで大人でもなく子どもでもない大学生くらいの年齢の方々と厚真町の小学生がふれあうのを見て、これは貴重な機会だと思いました。子どもたちが感じるメリットはすごく多かったのではないかな。1年目の活動後に2年目以降もどうしたらこの取り組みをezorockさんと続けていけるのか、役場の人間としてできることは何かを考えるようになりました。この時点で初めて厚真町にとってのメリットって何だろうって本気で考え始めました。
みさき:1年目の活動が始まる前まで、この長期滞在にどのような影響力があるのか、まだ誰にもわからない状態から始まったのですね。このプログラムを受入れようしたきっかけを教えていただいてもいいですか?
斉藤さん:受け入れの最初のきっかけは、胆振東部地震の時にボランティアを派遣してもらった恩を返したいという所にあるとは思いますが、果たしてそれができているのかはわかりません。でも、もしできていなくても厚真町での経験や、地震を経てどのように地域の人々の考え方が変わってきて、なぜ今挑戦し続ける土壌が厚真町にあるのかというところとは、社会に出ていく皆さんの学び場としてすごくいい場所だと思っています。
みさき:年月がたった今、いかがですか?
斉藤さん:自分も外国で経験があるんですけど、1泊2日や2泊3日の滞在と数週間暮らすのでは学びの質が違うなと感じています。1泊2日ってハッピーで終わるんですよ。楽しかったで終わっちゃう。でも1週間いると4日目くらいから、だんだん特定の人の言動に腹立つみたいなところが出てきて。自分が今まで生活してきた中ではいない存在、異質な存在に気が付く瞬間が3日目4日目とかそのくらいに出てくるんですよね。5日間くらいならあいつやっぱ嫌いだわ、くらいで解散しちゃう。でもそこを修復しようとするコミュニケーションが生まれるのは最低7〜10日間だと思っていて、そういう意味では一週間以上の長期滞在っていうのは、人間関係を学び、体現していくのに最適だと思っています。
みさき:その斉藤さんの長期滞在への狙いについてはいかがでしょう?
斉藤さん:このプログラムが狙い通りの学びを提供できているのかは正直まだわからないです。ただ皆さんがこれから先、「子どもたちと関わったりこういうことしたんだよね」とか「こういう経験してこういう考えを持つきっかけになったんだよね」、「いや昔さ厚真町っていうところに行ってさ」っていう話ができて、なんかそういう時に初めてわかるんじゃないのかなって。一つ言えるとしたら、皆さんが来てくれてお互い良いところ、だめなところを相互にやり取りできる時間っていうのは大事なのかなって思いますね。
みさき:「学び」って、すぐに自分のなかで整理して理解できるものもあれば、時間をかけて少しずつ落とし込まれていって、自分のものになっていくものがありますよね。
長期滞在を始めてから、厚真の方々や斉藤さんご自身に何か変化はありましたか?
斉藤さん:僕自身が一番変わったなと感じています。学生との関わり方について、例えば(活動の振り返りに対する)コメントの返信の頻度については今でも悩んでいます。「厚真町にはいろんな人がいるんだ」「私はあの人好みだけど、ちょっとこの人は苦手かな」とか、大学生のうちにいろいろな人と関わってそういう経験をしてほしいっていうコーディネートだったんですけど、来年ちょっとまた変えるかもしれないですね。
堀田さん:毎年思うけど大学生の変化に対する順応性に驚きます。1~2週間見知らぬ人と共同生活をして、農作業して、体を使って、コミュニケーションをとりながら円滑に生活をしなきゃいけないっていうことだけでもすごいと思います。特に今年は、今日はどうしよう明日はどうしようみたいなところから自分たちで決めていて、頼もしさを感じました。
斉藤さん:もちろん厚真の人たちも変化しています。震災の時、ボランティアとして見返りも求めず、厚真の子どもたちを笑顔にしてくれた人たちがたくさん来てくれて。来てくれただけでもありがたいのに、こちらは震災でぐちゃぐちゃで何もおもてなしもできなくて。だから今、その恩返しというのか、あの時ってそれができなかったから悔しかったみたいな気持ちがあったので。やっとちゃんと迎えられる、お客さんにおもてなしができるというのを楽しみにしているところはあると思いますね。厚真町のウェルカムな雰囲気って大切だなと思うんです。大げさに「感謝をしてます」みたいなものじゃなくて、「来てくれてすごく嬉しいですよ」っていうスタンスです。
▶️インタビューをしてみて
滞在中には沢山の経験をさせていただいてとても濃い時間を過ごさせていただきました。個人的には、「大学生のためだけではなく厚真町のためにも」というところが印象的でした。自分が厚真町のために滞在した際、何かできたかはわかりませんが、どちらかの一方的な犠牲の上で成り立つのではなく互いにいい影響を与え合うことで持続可能になると思いました。厚真町での自分の学びがいろいろな方々の思いやお考えの上で形になっていることに気がつくことができました。改めてその尊さを感じ感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。(みさき)
▼2022年度の長期滞在記事の記事は他にもあります!ぜひご覧ください!