実施内容
【1日目】
集合時間に土砂降りになった当日。湧別でも雨なのではと少し不安な雰囲気のまま、5名の参加者がスタッフの運転する車で湧別町へ向けて出発しました。
今回の参加者は、運転中にエゾシカとの衝突事故が起き、シカにあまりよくない印象を持ってる人、本州に住まいがあり仕事で北海道に来たからできるだけ北海道に触れて帰りたい人、実は湧別町に深い縁があった人と、参加動機がバラエティ豊かでした。湧別までの往路の車内では、参加者、スタッフを交えて湧別町についてやエゾシカについて、普段やっていることなどで盛り上がりました。
湧別に着いてすぐに、エゾシカの皮を提供してくれている湧別町地域おこし協力隊の田淵さんから、解体場・食肉加工場の説明いただきました。その中で、冷凍庫の中に吊るされて熟成されているエゾシカの肉を見ることができ、その状態で目にすることがあまりない参加者からは、「すごい」と声が漏れていました。
ひと通り、解体場・食肉加工場の見学をした後、自己紹介しました。前述した湧別に縁のあった参加者と解体場のある地域との関係がわかり、往路での車内以上の盛り上がりに。こんななことが起きるのも、実際に現地に足を運ぶプログラムだからこそです。
今回は、“エゾシカに関わる人の地域での普段の暮らしを体験する”プログラムのため、地域のお手伝いということで薪割りをしました。参加者のほとんどが薪割り初体験。やったことのあるスタッフ・参加者から斧の振り方や注意点などを教えてもらい、時間と体力の許す限り、薪を割りました。最初は割ることが難しかったのも、時間が経つにつれ割れやすくなり、次第に楽しくなっていったのか、斧を離さずまだまだといわんばかりで薪を割る参加者が出るほどでした。
薪割りを終えた後は、タイミングと運が良く、エゾシカの解体を見学することになりました。捕獲されたエゾシカが車のトランクに綺麗におさまった状態で運ばれ、解体場に吊るされ、ナイフを持った田淵さんと伊藤さんが手際よく解体していく様を見ました。みんな目が釘付けになり、最初は感嘆の声をあげていたのも次第に静かになり、淡々と捌かれ、エゾシカが肉や皮などの、言うなればエゾシカだったものへと形を変っていくのを見届けました。
その様子を見た後の夜は、エゾシカのすき焼きを作りいただきました。(少し前まで)生きていたものが目の前で食材となり、12時間程前に初めて会った人と一緒に調理し食べました。自己紹介の時にはエゾシカという存在が嫌いと言っていた参加者も、「エゾシカ美味しい!」と周りから「嫌いと言えないじゃん」と指摘されるほどに。参加者同士の間、エゾシカとの距離感が縮まるほど、濃い1日となりました。
【2日目】
湧別での濃い1日を終え、二日目。普段の運動不足が祟り、前日の薪割り作業による筋肉痛…。この活動を続けるにあたって、日頃の体力作りが大事だと感じました。この日はじわじわと肌に刺さるような真夏日となりました。2日目は午後まで裏すき(皮なめしの最初の作業)を行いました。初体験の方が多いなか、肉の削ぎ方を教わりながら一枚一枚丁寧に作業を行います。作業の合間に、解体の際にも使用されていたナイフの研ぎ棒を貸してくださいました。上下に数回研ぐだけであっという間に切れ味が戻るため、作業がスムーズに。また、塩漬けの際は食塩より粗塩の相性がよく、裏すき前に付けると滑りにくく作業がしやすいなど・・・新しい学びを得ることができました。
1日目に間近で解体作業を見学させていただき、「命をいただいている」ことを改めて実感。今回の裏すき作業は特別な思い出になりました。シカに限った話ではありませんが、肉だけでなく、骨や毛皮の一つも無駄にしてはいけないなと・・・この活動を通じて少しでも廃棄されるものが減り、活用してくれる方が増えてほしいと思います。
この活動に参加していると、鹿に対して様々な感情・考えを持つ方と出会うことができます。私はシカが好き・食べることも好きですが、そうではない方の話を聞いて「どうやったらエゾシカと上手く共生できるのか」を考えるようになり、特に思い入れの強い2日間となりました。
(記事書いた人 しん)
参加者の声
北海道ならではの自然体験がしたい!という思いでプログラムへ参加しました。お手伝いさせていただいた薪割り・いただいたシカ皮の裏すき、みんなで行う作業はどちらも楽しくあっという間に時間が過ぎました。1日目の夕方にはシカ解体の見学も出来ました。猟師さんの車で運ばれてきたシカからは、ついさっきまで息をしていたであろうことがしっかり感じとれました。生き物だったシカが製品としての肉へ変わっていく光景はとても不思議で、本当に貴重な経験でした。野生動物と人の関わりだけでなく、人の営みについても深く感じるものがありました。
参加後には肉や角の加工品など、シカ製品に自然と目が向くようになりました。北海道での滞在期間は数ヶ月。まもなく地元のある関東へ帰りますが、湧別での様々な出会いを通して北海道と自分の距離が、ぐっと縮まったような気がしています。(りえ)
「鹿と今こそ向き合わなければならない」。
車を走らせるのが好きな私にとって、鹿は最大の天敵であり悩みの種でもあります。春先、飛び出してきた鹿と当たって愛車に傷を負ってしまい、鹿をひどく恨むようになりました。鹿なんて大迷惑だ、いなくなればいい。そう思っていました。しかし、鹿は車に乗る以上、切っても切れない関係なのです。そんな大嫌いな鹿とじっくり向き合うことによって、自身の心境に変化が現れることを期待してこの2日間に臨みました。薪割りを終えたところで、捕獲したての鹿が一頭入ってきました。田渕さんと伊藤さんが包丁を入れていきます。剥がされる皮、取り出されていく内臓、切り離される足や首…。生命を感じました。それと同時に、どれだけ人間が優位に立っているのかを考えさせられました。少し「可哀想」とまで思ってしまいました。
車に当たったからといって嫌いで居続けるのは間違っている。様々な視点から向き合うことで私たちは共存できる。人間と野生動物の共存の意義について考えさせられた2日間でした。(ゆきの)
本プログラムは、内閣府「関係人口創出・拡大のための対流促進事業」の補助を受けて実施しています。
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